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ニュースクリップ:親子引き離しと再生 悩む児相ほか

◆平成23(2011)年11月6日 毎日新聞 東京朝刊

 虐待:ソフトで判別 横浜の小児科で試験導入

 ◇通報時の「証拠」に/親への説明など運用面で課題

 けがの部位や程度を入力すると、故意によるものかどうか判別するパソコンソフトが今年度から、横浜市の小児科医院で試験導入されている。児童虐待を見破る客観的な証拠になり得るとして、児童相談所(児相)や保育・教育機関での活用も期待されている。

 緑園こどもクリニック(横浜市)の山中龍宏院長は、けがした子が受診すると、診察後にパソコンソフトを起動させる。画面に浮かぶ子どもの身体図に、けがの部位をマウスポインターで塗る。「事故の種類」と「怪我(けが)の種類」を選んで「判別」ボタンをクリックすると、「不慮の事故による傷害の可能性」が数値ではじき出される。例えば転落と打撲傷を選び、額に印をつけると結果は86%。足の付け根では0%。転落で額に打撲傷ができる可能性は86%あるが、足の付け根に打撲傷はできないことを意味する。数値が低いと故意によるものと推定される。厳密な基準値はないが実際の虐待事例で試すと、数%~20%で虐待を疑われる結果が出た。

ソフトを開発したのは独立行政法人「産業技術総合研究所・臨海副都心センター」。情報工学の専門家や脳外科医、法医学者、心理学者ら約20人が、08年から国の補助を得て「児童虐待の予防に関する研究開発プロジェクト」を進めてきた。プロジェクト代表をつとめる山中さんによると、医師が保護者を疑い、児童虐待を通報するのは容易ではない。日本小児科学会が「子ども虐待診療手引き」を出しているが、実際は医師の勘に頼るところも大きく、「勘や経験だけを根拠に、虐待しているかもしれない親と向き合うのは覚悟がいる。かかりつけ医であれば付き合いや地域の目もあり、なおさら疑いを口にしづらい」と説明する。虐待を疑われた親は、その医師との接触を避けがちだ。虐待が表面化しにくくなり、子どもの生命が危険にさらされる恐れもある。機械が判別した「客観的な証拠」があれば、医師が警察や児童相談所に通報する心理的負担は減る。

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 同時開発した別のソフトにはシミュレーション機能があり、負傷時の状況をパソコンで再現できる。頭をけがした子の親が「階段から落ちた」と証言した場合、高さや床の材質により異なる衝撃の強さを計算で出せるため、実際の症状と照らし合わせて証言の信頼性が確かめられる。厚生労働省がまとめた福祉行政報告例によると、09年度に児相に寄せられた虐待相談は4万4211件。児童虐待防止法は児童虐待を疑った時点で医師に通告義務を課すが、医療機関からはこのうち1715件で4%にも満たない。今年1月には、2度骨折して病院を受診した大阪市の生後3カ月の男児が、父親の暴行で死亡。不審なけがを見過ごした市立病院の対応が問題視された。「治療に専念するあまり虐待を疑いもせずに対応したり、虐待の確証を得られず目をつぶったりする場合もある。少しでも怪しいと思った時点ですべて通報すべきなのに、実際は見過ごされ、先送りされている」。日本子ども虐待防止学会のメンバーで、児童虐待に詳しい済生会前橋病院(前橋市)小児科の溝口史剛医師は指摘する。溝口さんは各地の小児科医から相談を受けている。頭蓋(ずがい)内出血や骨折をした乳幼児の親の訴えをどこまで信じるか、現場も悩んでいると実感している。親の説明は「椅子から落ちた」「上の子がけった」「気がついたら動かなくなっていた」などが多いという。しかし高さ1メートル程度からの落下や子ども同士の暴力では、重篤な症状になることは極めてまれ。実際は大人による激しい殴打や「乳幼児揺さぶられ症候群」の可能性が考えられるが、中には親を疑うこともなく患部以外は診ずに自宅に帰す医師もいるという。溝口さんらが昨年、80大学医学部を対象に行った調査では、児童虐待を授業(1コマ以上)で教えるのは6校だけ。知識が不十分なまま医師が虐待診断を迫られているのが現状だ。「子どもの安全を担保するのが小児医療の務め。虐待の早期発見が、結果的に親の救済につながることを医療機関は自覚しなければならない」

 ソフトは今年度中に埼玉県の保育園が試験導入する予定。児童相談所での導入を検討している群馬県子育て支援課は「判別結果をどう活用するかが問題。子どもの栄養状態や家庭の経済的事情といった他の情報との整合性や、親への説明方法など運用面で課題がある」と話している。

 

◆平成23(2011)年11月6日 毎日新聞 地方版

 里親と子の村:静岡市に開所を 川崎友子さん、ベトナム視察で思い強く /静岡

 ◇児相ケースワーカー・川崎友子さん 家庭的環境と専門家の支援両立

 静岡市の児童相談所に勤める女性が今夏、ベトナムの里親と子どもが地域にまとまって暮らす「子どもの村」を訪れた。家庭的な養育環境と、ケースワーカーら専門家による支援体制を共同体の中で両立させている村に滞在し、「静岡市にも子どもの村を」との思いを強くしている。

 ベトナム・ニャチャン市にある子どもの村を訪れたのは、市児童相談所(同市葵区堤町)のケースワーカー、川崎友子さん(30)。夏休みを利用して7月17~19日、私費で単身、渡航した。首都ホーチミン市からバスで約5時間。ニャチャンは海沿いの観光地で、気候など静岡市とよく似ていたという。川崎さんが訪れたとき、子どもの村には0~18歳までの子ども約140人が生活していた。敷地内には50~60坪の住宅が14棟並び、それぞれの家に里親と里子10人が一つの家庭として暮らす。ケースワーカー5人のうち2人は村に住み込み、嘱託医も常駐していた。子どもたちの多くは、未婚による出産や貧困などの理由で入所していたという。運営母体はオーストリアのNGOで、資金は企業や個人の寄付で全額、まかなわれていた。世界133カ国で同様の村を運営し、国内では福岡市に10年4月、子どもの村福岡が開所している。川崎さんは大学を卒業した04年から1年間、米ニューヨークにホームステイした。そこで自閉症の少年(当時3歳)と出会った。血縁関係がない上で、どこまで踏み込んで少年に接してよいのか戸惑った。「里親が抱く葛藤や不安、孤独について、考えるきっかけになった」と振り返る。10月下旬、里親を対象とした講演会で視察について報告すると、参加した里親から「ぜひ実現してほしい」との声を多く受けた。「中山間地など自然の多い場所で空き屋などを活用し、いつか静岡市でも」との思いを強めた。

厚生労働省によると、情緒面の安定やこまやかな世話が期待できるとして、家庭で養育できない子どもたちを里親に預けるのが国際的な傾向だといい、14年までに、里親への委託率を現在の10・8%(10年3月末現在)から16%に引き上げる目標値を掲げている。県子ども家庭課によると、県内では10年3月末現在、159人の児童・生徒が里親のもとで暮らし、654人が施設などで集団生活を送っている。里親への委託率は19・6%と全国でも上位だが、里親登録数は減少傾向にある。

 

◆平成23(2011)年11月5日 読売新聞

 望まない妊娠 産科が相談体制 虐待予防 支援機関へ橋渡し

 乳児の虐待死が後を絶たないなか、日本産婦人科医会(寺尾俊彦会長)は、「望まない妊娠」で悩む女性の相談を受け、支援機関へ橋渡しする援助活動に乗り出す。未成年や未婚で予定外の妊娠をし、育児に不安を抱えた人を支援することで、乳児の死亡を防ぐことが狙い。

 2009年度に虐待で死亡した子ども49人のうち、0歳児が20人を占め、このうち新生児は7人に上った。乳児の虐待死が多い背景のひとつに、経済的な困窮や未婚などの事情を抱えた「望まない妊娠」のあることが厚生労働省の検証で指摘されている。産科医療機関ではこれまで、妊娠に悩む女性に対する相談や支援は一部でしか行われていなかった。今後は賛同する全国の会員の産科医療機関で担当者を置き、「妊娠などの悩み相談援助施設」という案内板を掲げ、援助活動を展開する。相談を寄せた妊産婦に対し、経済的な支援制度や里親などの子育て支援施策を紹介するほか、児童相談所など地域の専門機関への橋渡しも行う。同医会の寺尾会長は「生後間もない子の虐待死をゼロにするため、支援体制を築いていきたい」と話す。

 

◆平成23(2011)年11月5日 読売新聞

 [ひとりにしない](4)育児不安 寄り添う病院(連載)

 ◇ストップ 児童虐待

 ◇生まれる前から見守る

 今月初め、大阪府豊中市立豊中病院4階の会議室。小児科、産婦人科、精神科、脳神経外科、放射線科の医師や看護師ら計12人が、助産師の報告に神経を集中していた。「低体重で障害がある男児の母親が、強い育児不安を訴えています」 会議を仕切る松岡太郎・小児科部長(51)は、手元の資料に目をやった。助産師が書き込んだ男児の状態や出産前後の母親の様子から育児支援が必要と判断し、すかさず指示した。「保健師に連絡して。一緒にフォローしていこう」

     ◎

 会議は、虐待の兆候を見逃さないよう、院内全体で情報を共有するための「小児虐待対策委員会」。この日は、直近1か月に生まれた約10人の状態について議論を重ねた。この男児は地域ぐるみで見守ることを申し合わせた。毎月開く会議で取り上げるのは、妊婦健診を受けず出産直前に病院へ駆け込む「飛び込み出産」のほか、未婚や経済的困窮などの「望まない妊娠」、未熟児など、育児に不安を抱えそうなケース。数か月後、あるいは数年後、子供がどの診療科を受診しても、積極的にかかわって孤立を防ぎ、自治体と連携して支援できるようにするためだ。松岡部長がこの仕組みを作ったのには理由がある。

     ◎

 2003年12月、この病院で生まれた近くの女児(当時6歳)が、母親の暴行で死亡した。松岡部長はその2年前、親に太ももの骨を折られた乳児を診てから、子供を診察するたび、虐待の予兆をキャッチすることに神経をとがらせてきただけにショックを受けた。「何か手がかりはなかったか」。カルテの束から女児の記録を洗い出した。〈双子で、(女児の体重は)1800グラム〉〈双子の弟は脳性マヒで障害が残る〉 カルテからは、母親は虐待のリスクが高く、子育てに悩んでいたことが見て取れた。記載は3歳で途絶えた。「出産直後に支援の必要性に気付いていれば、女児を救えたかもしれない。もうこの病院から悲劇は繰り返さない」。松岡部長は、病院幹部と掛け合い、翌年、委員会を発足させた。その後、約7000人が産声を上げたが、虐待はゼロだ。「妊産婦は必ず病院と接点を持つ。出産前後から関わり、孤立してしまう前にどれだけ手を打てるか。医療機関の役割は重い」。松岡部長は、同様の取り組みが、他の病院にさらに広がることを願う。

     ◎

 こんなデータがある。▽予定外の妊娠 54%▽未婚 69%▽経済的理由 30%--。大阪産婦人科医会が昨年、死産するなどリスクが高い未受診妊婦計148件の実態を調査した分析結果だ。背景にある事情は、虐待死に多いと指摘される項目と重なる。担当した府立母子保健総合医療センター(和泉市)の光田信明・産科主任部長(55)は結果に、高リスク出産妊婦を取り巻く状況が、虐待につながる可能性が高いことを確信した。光田部長は言う。「虐待を防ぐには妊娠期から関わることが必要だ。産科医と、自治体や児童相談所など虐待に対応する他機関との連携を取っていかなければならない」 妊産婦にどれだけ寄り添えるかが、虐待の芽を摘むカギになっている。

 〈妊産婦の相談体制〉 児童虐待による死者のうち、75%が0~3歳に集中している(厚生労働省調べ)。これを受け、厚労省は7月、自治体に、妊産婦に対する相談体制の整備を通知した。大阪府は10月、思いがけない妊娠で悩む女性の相談窓口として「にんしんSOS」を開設。電話(0725・51・7778)やホームページ(http://www.ninshinsos.com/)からのメールで相談を受け付けている。

 

◆平成23(2011)年11月3日 読売新聞 関西発

 [ひとりにしない](2)親子引き離しと再生 悩む児相(連載)

 ◇ストップ 児童虐待

 ◇「迷ったら保護」命守るため

 「人でなし。子供を返せ」。昼下がり、大阪府内の住宅街に女性の怒声が響いた。府内の児童相談所(児相)の男性職員(37)は今秋、生後数か月の女児を職権で一時保護した。女性は10歳代のシングルマザー。数週間前から女児をほったらかして外出を繰り返していた。通報を受け、確認した女児の体重は5キロ。平均より2割以上軽い。自宅に置いたまま支援するか、保護するか。検討していた時、女性から電話があった。「娘と家を出る。もうかかわらんといて」。育児を放棄している疑いは強いが、子供は手放したくないのか。「連絡が取れなくなるとまずい。保護するしかない」。すぐに駆け付けた。拒む女性ともみ合いになった。そのすきに別の職員が女児を連れ出した。バッグを手に家を出て行く女性を見ながら職員は思った。「この親子はいつか、一緒に暮らせるだろうか」

       ◎

 児相は虐待対応の最前線を担う。府内は、8か所の児相がカバーする。昨年度は、専門職員計約100人で、約7700件に対応した。継続分を含め1人あたり年間100件前後を抱える。通報から原則48時間以内に子供の安全を確認する。その上で、親子を引き離さずに再生させることを第一に支援の方法を検討する。保護はあくまでも最終手段。だが、判断ミスは死につながるから、「迷ったらまず保護に踏み切る」。親が激しく抵抗する場合は、通園、通学途中に保護することもある。「すべては子供の命を守るため。『人さらい』となじられても、ためらいは許されない」と、職員は話す。一方で、府の児相が年間約650人もの子供を保護する状況に疑問を感じる。子供は救えても、親には児相が「敵」になるからだ。この児相の相談室の壁には親が蹴り開けた穴がある。刃物をちらつかせる親もいる。防刃チョッキも備えている。親子を引き離してから最長で2か月後、子供を家庭に戻す「家族再生」の役割も、児相は受け持つ。それは、「右手で殴り、左手でなでる」ようなもの。いったん対立した親と信頼関係を築くのは難しい。再生に向けた話し合いがつかなければ、子供を施設に入所させるしかないが、女児を保護した女性は一方的に連絡してくるだけで連絡先を教えようとしない。

 昨年、児童虐待による被害者数は全国で過去最多の362人に上った。命を最優先させるため、児相の権限強化は進む。2008年には家庭への強制立ち入り調査が可能になり、今年改正された民法で、最長2年間の親権停止が新設された。民法改正の議論の中で、親子を引き離す権限を、司法に委ねる案が俎上(そじょう)に上ったが、結論は見送られた。

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 職員が、女児を施設に入れて帰宅した。いつものように日付が変わろうとしていた。食卓に、妻が用意してくれたハンバーグとカボチャの煮物。横に書き置きがあった。〈パパへ サッカーの試合録画してるから、今度一緒に見ようね〉。小学生の息子の文字。一緒に暮らす幸せをかみしめながら、ビールをあおった。いつもよりほろ苦かった。「保護は必要だが、いったん引き離せば、『親子』に戻るのは難しくなる。児相が相反する役割を担ったままでいいのだろうか」 親子を引き離し、再び結びつける。矛盾の中で、多くの職員が葛藤している。

 〈児童相談所〉 都道府県などが全国206か所に設置し、専門職の児童福祉司を中心に虐待に対応する。全国の児相の対応件数は昨年度、前年度より1万件以上多い5万5152件(速報値)で、過去最高を記録した。一方、児童福祉司も増員されているが、昨年度は2606人と、前年度より129人増えただけだった。